はろーはろーはろー!(*´∇`*)
このブログではかなーり希少種の倭姫(シズキ)です。脚本を担当しております。
さてさて、プロトコルも全話が公開されましたが、聴いていただけたでしょうか?
前作とは少し違ったα.nightの雰囲気を楽しんでいただけたら幸いです。
今回、三月でホワイトデーも近いということで、プロトコルのショートストーリーを書いてみましたヽ(・∀・ )ノ
本編とは関係のないお話ですので、まだ聴いていないという方も、バッチリ聴いたぜ!な方も、問題ない仕上がりになっているかと思います。
拓真と海斗、それから美羽。
この三人の関係、その雰囲気が伝わればいいなあ、なんて思いつつ。
それでは、お時間ございます方は追記より「White day*」を召し上がれ(*´ω`*)
「ホワイトデーねえ」
町を飾る白と青のリボンは、ショーケースの中にある鞄やら洋服やらをこれでもかと目立たせている。女性向の雑貨屋を男が覗けば、すかさず女性店員が愛想を振りまいて「彼女へのお返しですか? でしたらこちらの商品が」などと言って声をかけてきて、使い方もよく分からないようなものを勧められたりする。
女物の買い物に慣れていない男性は絶好のカモだ。あれよあれよと勧められるがままに買わされて、気がつけば財布の中身が軽くなっていたりする。甘ったるい匂いの漂う店に入るのも苦手な男はそれだけで不利だ。
オルゴールが軽やかに流れ、あちこちでアロマやら入浴剤やらが香りを放つその店の中で、海斗は典型的なカモの姿を見つけて溜息をついた。そわそわきょろきょろ、明らかに挙動不審なその姿は、万引き犯に間違われても文句は言えない風体だ。
「――オイ、拓真。なぁにやってんだ?」
「ひっ! え、あ、海斗!? おま、なんでこんなとこに!?」
「買い物に決まってんだろ。由美ちゃんとひさひさと、あと香里ちゃんのお返し探し。チョコもらったし一応なー」
他にもサークルの女友達から受け取ったが、そちらは数が多いのでクッキーかなにかの詰め合わせでお茶を濁すつもりだ。本命ではないが、義理よりワンランク上のプレゼントをくれた相手には、やはりそれなりのお返しが必要だろう。
適当に、それでも彼女達が喜びそうな当たり障りのない雑貨をカゴに放り込んだ海斗を見て、拓真はかっと目を見開いた。照明の熱で汗を浮かべた額がずいっと近づいてくる。
「頼むっ、海斗! 美羽へのお返し、代わりに選んでくれ!」
「はあ? お前なあ。それくらい自分で選べよ、兄貴だろ。……つか、お返しってみゅうのかよ。他にチョコくれた女の子いなかったわけ?」
「うっ……、うるさいな! どうせお前はもう美羽へのプレゼント買ったんだろ? だったら似たような感じのをさあ」
「情けない声出すなよ、めんどくせぇ。んなもん、みゅうが好きそうなモン買ってやりゃあいいだけじゃねーか。どうせみゅうのこった、『おにーちゃんがくれたものならなんでも嬉しいの~』つって大喜びすんだろうよ」
「そうだろうけどさあ……」
めんどくさい。
無視を決め込んでレジで会計を済ませれば、慌てた拓真が子ガモのように後ろをぴたりとついてくる。今までだって何度も誕生日やホワイトデーを繰り返してきただろうに、どうして今年に限ってこんなにも悩んでいるのだろう。
男二人が愛らしい雑貨屋で立ち往生しているのは絵的に耐えがたく、拓真のおごりを命じて近くの喫茶店へ入った。おごりなので、遠慮なくドリンクバーとチョコレートパフェを注文したが、拓真は安いコーヒー一杯限りだ。ぐったりとテーブルに突っ伏した彼は、パフェが運ばれてくる頃になってやっと事の顛末を話し始めた。
「ああ、なるほど。みゅうがファッション誌を買い始めたから、適当じゃあいられなくなったと」
「そうなんだよ……。なんかさ、いつまでも子供じゃないんだなーって思ったら、キャンディとかじゃ駄目な気がしてさぁ。去年の美羽の誕生日に、母さんに『またハンカチ?』とか言われたの思い出したら余計にこう、なんていうか、うん」
「バッカじゃねーの? お前気づくの遅すぎんだろ。みゅうが雑誌買い始めたのって、去年の春からだぞ? 注意力なさすぎやしませんかね、オニーチャン?」
ガッと勢いよくテーブルに額を打ち付けた拓真が、心底絶望したような目で見上げてくるのが面白かった。いつものことながら、この兄妹は器用なようで不器用だ。
お互いの好きなものなんて、他人の自分以上に分かっているはずなのに「分からない」と言って泣きついてくる。両側からぶら下がられては鬱陶しいことこの上ないが、まあいいかとほだされているあたり自分も甘い。
チョコレートクリームを掬いながら、海斗はああでもないこうでもないと唸り続ける拓真の頭を空いた手でぺしりと叩いた。
「ちなみに俺がアイツに買ってやったのは、セラミック包丁とピンクのまな板。あとなんかあれ。パスタ挟むやつ」
「へ? ほ、包丁……?」
「そう、包丁。なにが欲しいかって聞いたら、『真夜中の鮮血~ヴァンパイアv.s.チュパカブラ~』シリーズのDVDかキッチン用品っつってたから」
あんな年齢制限がかかったスプラッタ映画のDVDがふわふわ少女の部屋にあるだなんて、考えただけでいろいろと萎える。そもそも、小山田家であのDVDを見た日には確実に悲鳴を上げる男がいるのだから、面倒な手間は省くべきだろう。
キッチン用品が意外だったのか、拓真は何度もぱちぱちと瞬きをして海斗を見上げてきた。
冷たいアイスが舌の上で溶ける。ガトーショコラは濃厚で美味かったが、先月美羽が作ってくれた――といっても、海斗の分は拓真の残り物だったが――チョコレートケーキの方が格上だ。
「いや、でも、さすがにホラー映画のDVDをホワイトデーのお返しにするのはちょっと……」
「それお前が嫌なだけだろうが。まあだから、よーするにだ。みゅうに直接、なにが欲しいかって聞きゃいいんじゃねーの? あのブラコンが無理難題ふっかけてくるとは思えねーし。ま、なにやったって喜ぶと思うけど」
ツインテールを揺らして兄を慕う妹の姿は見ていて微笑ましい。たまに鬱陶しくもあるけれど、慣れてしまった今では日常の風景に近いものがある。
美羽は口を開けば、二言目には「おにーちゃん」だ。こんな頼りない兄でいいのかと聞きたくなるが、聞いたところで返ってくる答えに予想はついている。
最下部に詰まっていたコーンフレークをざくざくとスプーンでつつき、海斗は頭を抱える拓真を笑った。
「せーぜー悩め、オニーチャン。――あ、ついでに肉食っていい?」
メニューのハンバーグステーキを指させば、当然のごとく拓真が抗議の声を上げる。あっさり無視を決め込んでボタンを押せば、情けない声の代わりに店員の明るい返事が近づいてきた。
目の前に置かれたパフェのグラスと熱々のハンバーグステーキに、げっそりとした幼馴染。
ホワイトデー商戦に燃える市場にとって最高のカモである友人へのせめてもの餞別にと、海斗は手ずからブレンドしたドリンクを贈るのだった。
White day*
(ぶっ――!! げっほ、か、かいっ、お前! なんだよこれ!!)
(あっはははは! きったねえ! んな色のジュース普通飲まねぇだろ!)
(海斗くん海斗くーん! 見て見て、おにーちゃんにもらったのー! あとで一緒に見ようよ、ねっ?)
(おー、なにもらっ……って、結局DVDにしたのかよアイツ……)